
ここで起こった変化に書かれている内容について、そうなのだと思えばそれでおしまいです。どうしてそうなったのかというのが、気になります。2つのことが書かれています。波が弱くなったということと、土砂が(沖合まで)流れていきやすくなったということです。
1つ目の波が弱くなった原因はなかなか気づけませんでした。さんざん考えてわかったのが、書かれている地図は右が北になっているということです。冬の季節風によって押し寄せてくる波は東西方向に延びる突堤で防ぐことができます。わかり難い地図です。北風による波を防いでいるということを意識していないように見えます。
2つ目の、流路ができて沖合まで土砂が運ばれやすくなったという点です。突堤が左にカーブしていますから、水の流れは突堤にぶつかるよう(攻撃斜面)に流れていきます。比較的流れが速くなり浸食が起こりやすくなります。沖合への流路は確保できるでしょう。
ところが、本文には三国港でも土砂の堆積があったと書かれています。同じカーブなら、三国港付近と同様に土砂を運び去るほどの勢いができない事になります。これでは三国港での土砂の堆積を防ぐことはできそうにありません。
基本的に流路を固定すると、土砂の堆積を進めるのが普通です。天井川がその典型例です。
流路についても気になることがあります。洪水時に阿賀野川からの流れが新潟沖へ流れていくようすを見たことがあります。泥水はそのままの勢いでもとの流れの幅を持ったまま、海面上をまっすぐ沖合に流れていっていました。川の流れは河口から周囲に一気に拡散しないことがわかります。地球観測衛星の画像を使って河口から沖合にかけての流れを調べても同じようなことが見られます。九頭竜川でも同じことが起こっていそうです。何か特別な理由があるのでしょうか。阿賀野川は流路の長い川の一つで、九頭竜川はどちらかといえば急流といえる川です。関係しているのかな。
何かヒントをということで、三国突堤について検索してみました。具体的な像が見えてこないのですが、どうも三国港対岸(九頭竜川左岸)に柴を束ねてT字型になるようなものをいくつも置いたようです(向きが不明ですが)。これによって川の流れを右岸側に集めて三国港付近での流れが速くなるように流れを制御したようです。粗朶(そだ)水制と書かれています。その先にカーブした突堤があればその流れの勢いで沖合まで土砂を運んでいきそうです。
突堤はありませんが、これとよくにたことを江戸時代にもしていたようです。しっかりとした堰を上流部に作っていたため、明治初期の洪水時にさらにその上流部が氾濫しました。川が氾濫した原因が堰にあると考えられ、洪水が再び起こらないようにということで取り払われました。その結果起こったのが三国港での土砂の堆積です。粗朶水制で洪水が起こらないのか心配になってきます。それほど大きなものではなかったのかも。具体的なことはネットの記述からはわかりません。
以上をふまえてみると、三国港での土砂の堆積がなくなったのは、突堤のみではなく同時におこなわれた周辺での治水工事が関係していることがわかります。どちらかというと、治水工事が主で突堤はとってつけたようなもののような気がします(こちらの方が手間暇がかかったようです)。
このことからすると、(3)考察として記述する内容として「エ 突堤は、河川の流れの勢いを維持し、土砂を三国港付近の水底に堆積しにくくしている」は正解なのでしょうか。左岸側の粗朶水制がなければ、土砂の堆積は続いていたと思われます。江戸時代の水流制御は功を奏しています。限りなく出題ミスに近いような気がします。Fさんが考えた事として正解とするのでしょうか。
突堤は作った割りにはそれほど効果がなかったと書かれているページもあります。そもそも建設による変化として書かれている内容も本当なのかどうか。ネットでの記述からははっきりしません。
チェックしたページとURLです。
福井県建設技術協会:三国港突堤の紹介
http://www.zenkenfukui.jp/inheritance/mikuni.php
一般社団法人日本埋立浚渫協会:21世紀に伝えたい『港湾遺産』
https://www.umeshunkyo.or.jp/104/07mikuni/page.html
土木学会:選奨土木遺産 三国港エッセル堤の解説シート
https://committees.jsce.or.jp/heritage/node/331
更にいうなら、この考察は根本的な所では地学との関連について微妙な感じがします。地学(理科)として考えないといけないのはどうしてそのような現象が起こるのかということではないでしょうか。大きな波がやってこない理由とか、流速が維持されたのはどうしてかということ考えるのが筋なのではないでしょうか。その点でいえばここで出された問題はどちらかといえば地理(社会)で取り上げられるような内容かなとは思います。解答するには文章を読めば何とか答えられますが、その背景の理論的な所で引っかかりを感じます。理由がはっきりとわからないものはなおさらです。